『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』感想
僕は彼らの世界を理解したかった。彼らが何を考え、何を見て、何を思うのか。そこは人とは異なる知性の世界だ。
やっぱりネタバレ全開で行きます。
以下、感想です。
ツイッターでは ピカレスクロマンと呼んだが、帯にあるようにスラップスティックと呼ぶほうがより適当だな、と思った。
スラップスティック・クライム・アクション。
エンタメエンタメと言われていたが、自分としては「王道」という言葉がふさわしいと感じた。
頭から終わりまで、まっすぐに物語が展開し、文章の完成度は高い。
ただ、選評にあった「AIが書いたような作品」という表現には強く異を唱えたい。
これだけ入念に練られ、安定した作品だと人間に感じさせるには、少なくとも現状の自然言語処理では到底不可能だろう。(まあ、某G社などがリソースのすべてをつぎ込んで挑戦しようものならどうなるか、という気はしなくはないが……)
それこそ何百、何千、いや何万という次元の変数を用い、ハイパーパラメータの調整を重ねて、適切な学習を繰り返し繰り返ししてやらなければならないことか。
それも、単一の学習のなせる業ではない。
紆余曲折する物語の筋道をつけて、人間が納得するエンディングを書き切るには、複合的な知能の出力を折り重ね、統合する手管まで必要になる。
これは、人の意思による徹底的なチューニングが生み出した王道の物語だ。
映画化を希望する五嶋だが、ケレンの効いたセリフの数々は声優さんの演技が映えそうで劇場版アニメ向きと感じたし、潜入シーンやアクションシーンなどの場合は海外のFPSシューティングのようなイメージで私の脳内では再生された。
めぞん一刻方式のネーミングルール。
- 一川
- ?
- 三ノ瀬
- 四郎丸
- 五嶋
- 六条
- ?
- 八雲
- 九頭
2と7って、いたっけ?
ごく個人的な嗜好の問題で申し訳ないのだけれど、カジノという舞台に魅力をあまり感じないのが、悲しいところ。
(かのマルドゥック・スクランブルも、それが理由で原作を読み切れていない。マンガは大今良時氏の仕事がよくて読めたのだけれど……脱線)
ACT1の現金輸送車強奪よりも、カジノのほうが技術戦と犯罪サスペンスに相応しい舞台なのはよくわかるんだけどね。
ACT1の映画的で(五嶋の趣味と、それに振り回される三ノ瀬というペア(バディ)のキャラ立てにもつながっている)、アクション性の高く、キャッチ―な導入から初めたうえで、続けて静的ながらより本格的に高度な技術合戦となるカジノ編へ。よい構成だと思う。
ほんと、個人的なセンスの問題で、申し訳なさすぎる。
Adversarial Exampleについてはニューラルネットワーク、ディープラーニングの分野がまだまだ勉強不足なせいで、そうなんだーくらいにしかわかってないまま読んでた。
あと、この物語中での個人認証チップってのがどんなものかがよくわかってない。
手に埋め込むチップではない?
Adversarial Exampleでチップを入れ替えるとは、どういうこと?
技術ネタの話題に入ると、なんというかアイティメディアあたりのWeb読み物を読んでるような気分に……。
あるんですよ、小説仕立ての技術読み物記事がいろいろと。
技術ネタはマニアックだけど、映画のチョイスは王道だなあ、と。
砂場(サンドボックス)も悪くないよー。
フレーム問題は面白いですよね。なにもAIに限った話でなく。生命に関わるお話。
決着前の強いAIについての話は、選評で言われていたものと比べると真逆の結論になっているようで混乱する。
AIと人類がよりよき隣人として在るために、という話であって、強いAIの否定では、まったくない。
つまり、冒頭に引用した三ノ瀬のモノローグ、そのものだ。
首尾一貫したテーマが貫かれている。
こちらも改稿前後で結構変わっているのだろう、選評は気にしないほうがよさそうだ。
ツイッターでも書いたけど、『パターン認識と機械学習』を参考文献に使えるってスゴイ。私は勉強不足でまだ手が出ないけど、機械学習するなら必読って言われてるバイブルなんだよな……数式だらけって聞いてるけど。
しかし、著者の竹田人造氏は同世代かなーと思っていたら一回り下の方であった。
いや、どうでもいいんだけど、そらもう自分もすっかりおっさんだな、と改めて感じた次第。
(続く)